歯並びがデコボコしたり重なっている「叢生」や、前歯が大きく前に傾いて生えている「出っ歯」ような不正咬合(悪い歯並び)は、顎に歯が並ぶためのスペースがないことが原因で引き起こります。日本人はもともと顎が小さいということもあり、不正咬合の方は多いといわれています。不正咬合や悪い噛み合わせは、歯列矯正治療をおこなうことによって正しい位置に整えることが可能ですが、場合によっては抜歯が必要になるケースもあるのです。
歯列矯正治療とは
不正咬合や悪い噛み合わせを正しい位置に整える歯列矯正治療には、主に金属製のブラケットという装置を歯の表面に装着して、ワイヤーを通して引っ張ることで歯を動かしていく「ブラケット矯正治療」と、マウスピース型の装置を歯に装着して、定期的に動いた歯に合わせて新しいマウスピースと交換していくことで徐々に歯を移動させる「マウスピース矯正治療」があります。歯の表側に装置を装着する「唇側矯正」(表側矯正)が一般的な矯正治療法ですが、装置が目立ってしまうことで人前に出る機会の多い職業の方は仕事に支障をきたす可能性があります。その場合、歯の裏側に装置を装着する「舌側矯正」(リンガル矯正)は、装置が表から見えないので周囲に矯正治療をしていることが気付かれにくいです。同じく気付かれにくい治療法としてマウスピース矯正治療があり、装置の取り外しが自由にできるため、歯磨きや食事の際に取り外すことで普段通りにおこなうことができるメリットがあります。マウスピース矯正治療の中でも、近年多くの患者さんが「インビザライン」による治療をおこなっています。
抜歯の必要性
歯列矯正治療は、装置によって歯を正しい位置に動かしていくのですが、その際に歯を移動するためのスペースが必要になります。しかし、顎が小さく歯を移動するための十分なスペースがない場合に、無理に移動することで本来の顎の位置から外側へ歯が並んでしまい、歯根が歯を支える歯槽骨からずれてしまうことで、歯茎が下がってしまったり、前歯の部分が前へ出てきてしまい口元が盛り上がって見えてしまう可能性があります。
また、通常の矯正治療では、動きにくい奥歯を固定源として力を加えていきますが、スペースがないために無理な力がかかってしまうと、耐えきれなくなった奥歯が逆に引っ張られて前に倒れてしまう可能性もあります。抜歯をおこなうことは、スペースをつくることによって無理な力を加えずに歯を正しい位置に並べるためなのです。さらに、顎と歯のバランスが整うことで、噛み合わせもキレイに整えることができます。他にも、矯正装置を使用した治療が終わり、装置を外した歯は元の位置に戻ろうとする「後戻り」を起こしてしまいます。この後戻りを防ぐために、歯を動いた位置へ定着させる「保定期間」に入ります。抜歯の処置をおこなった歯列矯正治療の場合、治療後の後戻りも起こりにくいです。
抜歯が必要な場合でも非抜歯での矯正治療が可能な治療がある?
ディスキング
ディスキングとは、歯の表面のエナメル質を少しだけ削ることで歯と歯の間にスペースを作る方法です。その際に削るエナメル質は、歯の健康や寿命に支障のない程度で、麻酔などの必要がなく痛みを伴うこともありませんので、安心して頂ける処置方法です。ディスキングによって、歯を動かすための必要なスペースを確保することができる場合は、非抜歯での矯正治療が可能です。
インプラント矯正
インプラント矯正とは、「矯正用アンカースクリュー」という小さなネジ式のインプラントを顎の骨に埋入して、歯を動かす支点とする治療方法です。通常、矯正治療は動きにくい奥歯を固定源とするので、歯列全体を大きく動かすために無理な力がかかってしまうと、逆に奥歯が引っ張られてしまい前に動いてしまうことがあるのです。この場合は抜歯の処置が推奨されるのですが、顎の骨に埋入したインプラントを支点とすることで、歯列全体を大きく動かすことができるため、非抜歯での治療が可能な場合もあります。また、矯正用アンカースクリューを用いることで、奥歯を後ろに動かすことが可能になります。それにより、従来は小臼歯の抜歯が必要な症例でも、非抜歯での治療がおこなえる可能性が高くなるのです。矯正用アンカースクリューのインプラントは、歯を失った際に人工歯として埋入する「デンタルインプラント」とは別のもので、直径は1.3~2mm前後、長さは5~10mm程度のチタン製の小さなネジです。矯正歯科治療が終わると除去しますが、その際に痛みもなく跡も残りません。
まとめ
健康な歯はなるべく残しておきたいと考えるのが一般的ですが、症状によっては抜歯の処理をおこなうことで、無理なく歯を動かすことができます。抜歯の処置が必要かどうかは、事前に歯科医師と相談して、もしも抜歯が必要な場合は納得した上でおこなうようにしましょう。